2013年5月4日土曜日

最果てのご褒美

ラパタイアを後にした僕は、ウシュアイアの街へと戻り、
街外れの丘にある名物日本人宿・上野山荘へと向かった。
シーズンのこの時期、満室だったら最後が締まらないなぁと思っていたのだが、僕が着いたその日は
南極行きの船を待つ夫婦と、ここから北上を始めるチャリダーの3人しかいなかった。

どうやら、この週から始まるリオのカーニバルと雨季で鏡張り真っ盛りの新月のウユニという
南米の2大メインイベントと重なっていた模様。

ウシュアイアは“世界最南端”といった称号を除けば、これといった観光ポイントがあるわけでもなく。
ここから発着する南極行の船の船待ちの街といったかんじだ。
出発当初、お金に余裕があれば南米のボーナスで南極を、
と思っていたが年々値上がりする南極ツアーの今季最安値は4000$ということで、
急激に円安の進む為替相場もあってお流れに。
街から離れたところには、強い西風に流されつつ生育した“曲がった木”があるそうだが、
こちらにも大して興味が湧かず。

僕が到着した翌日にはモトミくんも南米縦断を終え、上野山荘に転がり込んできて、
時を同じくして遠くモロッコに渡ったサヌキくんも、
時最終地のマラケシュに着いたというニュースが飛び込んできた。
みんな、ここいらで一段落の様子。そして皆無事でよかった。

僕らはというと上野山荘名物の五右衛門風呂で旅の垢を落とし、
コルデロ(羊)のアサードをしたりと、派手さはないけれどのんびりとささやかに最果ての地を楽しんだ。

ここで、ひとつやり残したことがあった。

ウシュアイアの海に面したところにある“Fin Del Mundo”と書かれた看板。
多くのサイクリストたちがここで記念写真を撮っている有名ポイントなのだが
ウシュアイアに到着した日はどういうわけか見落としていて(看板を探すことすら忘れていた)
その場所をモトミくんが見つけてくれていた。

せっかくなので写真を撮りに行こうと、僕らはわざわざフルパッキングにした自転車を持って看板へと向かった。
有名ポイントだけあって、そこで記念写真を取ろうとするツーリストでいっぱいだ。
順番待ちがあるわけではないけれど、写真を撮るタイミングを脇で待っていると
モトミくんが何やら誰かと話をしている、どうやらチリ側パタゴニアで会ったサイクリストらしい。
非常に風の強い日に会っていたそうで、無事ゴールした彼の姿を見てモトミくんも安堵していた。

しばらくしてようやく僕らの番がやってきてきた。
記念写真のために上野山荘の宿泊客から借りてきた三脚をセットする。

よし、この角度でオーケー、あとはタイマーをセットして…
おいおい、後ろに誰かいるよ…、どいてくれよな~。
ってアレ!?

カメラのモニターに写った影の持ち主は、イギリス人サイクリストのアランだった。

アラン!!そう叫ぶと、その後ろから次々に見慣れた顔が。
マティアスにアンドレア、それにレネだった。

アランとはアルゼンチン中部のリベルタドーレスから、他の三人とはカレテラアウストラル終盤から
たびたび再会を繰り返していた。

さすがに僕がカラファテで半月以上停滞していたので、もう会えないと思っていた。
聞けば、彼らは彼らで南極行きの船をずっと待っていたらしい。
その南極行の船の出港はちょうど今日ということで港まで出てきたそう。
なんてタイミングだ。

彼らとは特にいつもタイミングを合わせているわけでもないのに、示し合わせたように再会を繰り返す。
街一番のスーパーに買物に行った時、ネットを繋ぎにカフェに寄った時、ふらっと散歩に出かけたメインストリートの街角で…
国籍も旅のスタイルも歳だってバラバラなのに、自転車という唯一の共通項だけで、
こうも強い結びつきに導かれる。
それにチャリダーっていう人種は、こんなに行動のチョイスが重なるものなのかと笑えてくる。

僕らは、“道”を拠り所とする生き物だ。
どんなに離れていても、道が良かろうと悪かろうと、道を辿っていけばいつかまた巡り会える、
そんな観念があるような気がする。
この一点において、自転車は出会いを導く何よりも優れた乗り物だ。
だから、再会は最初驚くけれど、すぐに何事もなかったかのように打ち解け、お互い走ってきた道の話になる。
俺の時はものすごい追い風で40km出たよとか、一輪車の彼女には会った?とか。

そしてこう何度も再会を繰り返すとお互いのことを分かるようになってきて
冗談が言えるのも嬉しい。

アンドレアが言う。
『ヨーロッパに行くって言ってたよね?私たちはまだ旅を続けるからスイスを案内できなくてごめんね。
でも1つだけアドバイスをするわ。
スイスに入ったらペースダウンしなさい』

「何故?」僕がたずねる。

『何故って、あなた一日で走り切っちゃうからよ!』
そう言ってゲラゲラ笑う。

中米、アンデス、カレテラアウストラル…。
時期も、場所もまったく違う所で会った仲間がこうして一同に集結するとは
その当時思いもよらなかったよな。

ウシュアイアの街自体はツーリスティックで何の面白みもない街だけど、
それぞれの道を辿って、ここまでやってきたんだなぁ。

そう、僕らはきっと、この街にいる誰よりもこの大陸の広さを知っているのだ。

最果てに待っていた思わぬ再会は、何よりも嬉しいご褒美だった。
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