2013年5月29日水曜日

いつかいた世界

定刻より1時間遅れで飛行機は、滑走路を飛び立った。

体全体を抑える重力に軽い抵抗感を感じながら窓の外を見ると
サンパウロの街の広がりがどんどん小さくなっていった。

旋回をしながら高度を上げる飛行機は、やがてサンパウロ名物・夕刻の雷雲に飛び込んだ。
一瞬、窓の外が暗くなったが、すぐにさきほど以上の明るさを取り戻す。
雲の上には青空が広がっていた。

窓から外を眺めると、雲の切れ間からサンパウロ市街がまだ見えた。
ただ、随分と小さくなった。

ふと前の座席に付いているモニターに目をやると標高が2000mと表示されている。
雲の上まで飛行機はのぼったというのに、まだそんな程度なんて。

ボリビアからチリに抜けるとき、僕の自転車は最高地点4900mを記録した。
徒歩に限って言えば6000mを越える山にも登った。

いま僕の目の前に延々広がるのは僅か2000mの雲海。
機体はぐんぐんと高度を上げていく。

まだまだ。

まだまだ。

僕の知っているこの大陸の背中はもっと高いところにある。
まだまだこんなもんじゃない。
そう思いつつ、モニターに表示される高度と窓の外の雲海を交互に眺めた。

しばらく過ぎて、機体が安定圏に入ると、パンッと機械的な音が機内に響き
乗客がカチャカチャとシートベルトを外し出した。

この時、高度はモニターに表示されていなかったが、
この音を聞いて、僕の南米はようやくここで終わったのだと思った。
いや終わってしまったのだった。
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