2013年5月2日木曜日

自意識過剰のヒーロー

道の終わりのラパタイアでは、リオグランデで買ってきたFin Del Mundoの銘柄のワインを
一人しっぽりと飲もうと思っていたのだが、そうはいかなかった。

次々と観光バスでやってきたツーリストにもみくちゃにされ、たくさんの祝福をされた。
ひとつのグループが去ると、また次のグループがやってきてはその度に
写真を撮られたり、これまでの旅の説明をした。

思いがけない祝福に当惑しつつも、こうやってゴールを祝ってくれる人たちがいるのは
嬉しいものだなぁと思った。
特に台湾からやってきた年配のグループの人が僕に
You are my heroと言うと、周りのみんなもmy heroと連発するので、さすがに僕も恥ずかしかった。
ただ今日ぐらいは自分でも自分を褒めてあげたい。
ここまで諦めずに走ってよかった。

そうして小一時間ほどの写真撮影が終わると、やっと人も少なくなって落ち着いた。
なんだかワインを飲むタイミングを失ってしまって、どうしようかと片手にワインボトルを持ちながら
奥に出ている桟橋の方に歩き出した。

50mもない距離で桟橋の突き当りにぶつかり湾に面した海に出た。
特段、綺麗な海でもないのだけど、やっぱり僕らサイクリストにとってはここは特別な場所。
浅い波の立てる音を聞きながら、ようやく手に抱えたワインを飲んだ

程よく酔いがまわった所でウシュアイアの街に帰ることに。
自転車の置いてあるところまでもどると、さっき一緒に写真を撮った人たちが数人残っている。
“あ、あの人、街に戻るみたいよ”
自意識過剰ながら、そんな視線を感じつつ自転車にまたがる。
すぐ先の駐車場を抜けたあたりで馴染みのある違和感に気がついた。

これは…
パンクしてますやん。

どこでやったか分からないが後輪がパンクしていた。
なんでまたこんなところで。せっかくカッコよくゴールしたのに。
幸いにもスローパンクだったので即座にぺっちゃんこというわけではないけれど、
もうだいぶ空気が抜けている。

直そう。
そう思って自転車から降りると、駐車場の方から再び視線を感じる。

“ん、僕らのヒーローに何かあったみたいだぞ”
“私のヒーロー大丈夫かしら?”

自意識過剰である。

だがしかし、アイドルに恋愛はご法度のように、キティちゃんの体重がりんご3個分のように、
はたまた優雅に見える白鳥も水面では激しく足を動かしているように、
みんなのヒーローが、こんなところでパンク修理をしている姿は見せられない。
ヒーローはパンクなんてしないのだ。

自意識過剰である。

何事もなかったかのように、自転車にまたがって走り出した。
しばらく行って人気のないところに行ってタイヤをチェック。
やっぱり完全にパンクしている。

しかしラパタイアからウシュアイアの街まではほとんど一本道。
さっきの人たちがここを通るとの時間の問題だ。
修理している場合じゃない。

そんなわけで…

①空気を入れだましだまし走る。
10分もしないうちに地面とタイヤの感触がソフトになる。

②再び空気を入れる。
シュコシュコと空気を入れていると、後方からブォォンと車のエンジン音が。
やばい!車が来た!!

③慌てて自転車に乗る。
車が立ち去ったあと、再びポンプでタイヤに空気を送る。

④だんだんと空気が抜けてくるので①に戻る。
の繰り返し。

傍からみれば、何やってんの?直せばいいじゃん?と思うだろう。
だけど、すぐに誰か人が来てしまうから、直すに直せない。

自意識過剰である。

けれど、繰り返し言おうじゃないか。

ヒーローはパンクなんてしないのだ。

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