2013年4月19日金曜日

fin del mundo para mi

プエルト・ナタレスからは、進路を東に取りながら徐々に南下をする。
この時期、西からの強風がほとんどのため、この先プンタアレナスまでは絶好の追い風コース。
雨を運んできたり、向かい風に苦しめられたりしてきたパタゴニアの風をいよいよ味方にする。
加えて起伏らしい起伏も皆無。
追い風×アスファルト×フラット×ここまで走ってきた走力の破壊力は、これ如何に?

力まず、くるくるとペダルを回しているだけなのに30㎞以上で自転車は進む。
進行方向と風向とがばっちりと重なり合っているから、風の音もほとんど聞こえない。
まさに風になった、気分。

辺りに生える背の低い草が自転車と同じ方向に、ちらちらと揺れていることだけが風を感じさせる。
パタゴニアの風、貴方を味方にするとこうも心強いものなのか。

ただし、立ち止まると途端に、風は牙をむき出しにして襲い掛かってくる。
強い追い風、といってもさすがに240㎞先のプンタアレナスはまでは1日で到着できる距離ではないので
どこかで一夜を過ごさなければならなかったが、
この長い区間、日本で言うと東京~浜松くらいまでの間で風をしのげせそうな場所は数えることの出来るくらいしかない。
道中、誰が利用するのか分からないバス停は、数㎞置きに点在していたが、
ナタレス以降のバス停は横になれないほど狭く、窓も風の影響か割れていることもしばしばだった。

140㎞地点の村にちょうど無料のキャンプ場があり、そこで一晩過ごした翌日、
一走りしてプンタアレナスに着いた。
(100㎞近い距離を一走りとは言わないと思うが、この風の中ではまさに一走りに近い感覚だった)

プンタアレナスは南米大陸最後の都市。
人口10万を抱え、チリ中部と何ら変わらないほどモノにあふれたこの地域は
とても世界の果てに近い場所とは思えない。
ここにあるのは太平洋と大西洋を繋ぐマゼラン海峡。
パナマ運河開通以前は世界一周の最短航路の港町として栄えた場所だ。
そしてこの場所をもってコロンビアのカルタヘナから始まった南米“大陸”縦断が完了した。

“大陸”とくくったのは、この向こう側にあるウシュアイアが南米最南端を謳っているから。
あちらはこの先マゼラン海峡を渡ったフエゴ島に位置していて正確には大陸ではない。
さらに言うと、ウシュアイアの更に南、ビーグル水道を渡った先のチリ領ナバリノ島にも
プエルトウィリアムスという村が存在していて、どこもかしこも“世界最南端”を決まり文句にしている。
それぞれ、“南米大陸としては”とか“銀行、病院などが揃う都市という定義としては”、“人が住む集落としては”などの前置きがつく。
ひねくれた言い方をすれば、このあたりは世界最南端のバーゲンセールなのだ。
いろんな見方やものさしで世界最南端が変わってくる。

だから自分で南米の終わりの落とし所を見つけなくてはいけない。
地理的な視点で見てみると、より南に位置するプエルトウィリアムス。
調べるとウシュアイアから自転車を積んで向こうに渡るにはなかなか難しいらしい。
プンタアレナスからは2週に1度のクルーズ船が出ているようで、こちらは交渉次第で自転車も
持っていけそうだったが、ナバリノ島を走ることは叶わず港に直行らしい。
そうなると、南米自転車走行はここプンタアレナスで終了になってしまう。
それはなんだかなぁ。

僕の旅は決して冒険ではなく、自転車旅行であって“道”を拠り所として人の住む場所を通ってきた。
だから、やはり僕の南米の終着点は自転車で行ける道の終わりがよかった。
そう考えると、プエルトウィリアムスでもなく、プンタアレナスでもなく
ウシュアイアの先にある国道3号線の終わりラパタイアと呼ばれる場所が相応しいと思った。

色んな定義があるけれど僕にとってのFin Del Mundo(世界の果て)はラパタイアなのだ。
いざフエゴ島へ。

いよいよ南米が終わる。
いや終わってしまうのだ。
DSC02014_RDSC02019_RDSC02027_RDSC02031_RDSC02043_R

0 件のコメント:

コメントを投稿