2013年4月24日水曜日

パタゴニアのペダリアンド

ペンギン村を後にした僕は、パタゴニア名物、政府公認の“泊まれる”イミグレーションを通過し、
アルゼンチンに入国。
一気に150km走りフエゴ島最大の街リオグランデについた。
引き続き風向きも良好。アスファルトも復活したのでさほど労することがなかった。
観光の中心はウシュアイアだが、フエゴ島の暮らしの中心はこちらリオグランデ。
カルフールや、パタゴニアチェーンのLAスーパーが街のメインストリートに君臨しそれらを中心に
商業施設が連なっている。
フエゴ島の素の暮らしを見たければ、こっちを尋ねるのも良いのかもしれない。
ただ、観光地ではないだけあって、安宿がなかった。
街唯一のホステルもなぜかセラド(閉店)の看板が出ていたので、他を当たるもどこも軒並み4000円近い。
途方に暮れ止むをえず、今日もキャンプかとスーパーで食材を買い出ししていると
最初に訪ねた安宿の関係者に声をかけられた。

「泊まるとこ探してるの?うちに来る??」
『えっだけど、セラドって書いてあったよ』
「いや、営業してるんだ」

なんでやねーん!
でも助かった。

そうしてオスタル・アルヘンティーノに転がり込むと、他にも数名のツーリストがいた。
僕の場合たまたま、おっちゃんに会えたから入れたけどみんないったいどうやって泊まれたのだろう。
安宿にかからわず内装も綺麗で空調完備。かなり良さげな宿だった。

一泊してすぐ出るつもりだったが、翌日はついにこれまでで最強のとんでもない風が吹いた。
もはや半端な台風すら凌駕するレベルで
外は建物が風に叩かれる音と、凄まじい風切り音が荒れ狂っていた。
試しに外に出てみると前傾姿勢で全力で進まないと前進しない。
逆方向に進んでみると一歩がいつもの倍以上進んだ。
街なかでこんな風なのだから、荒野に出ようものなら自殺行為。
ましてや街を出るのには20kmほど西に進まなければならないのだから。

そんなわけでウシュアイアまで200km強まできたが今日はお休み。
宿のリビングでのんびりと過ごすことにした。

昨日の宿泊客はほとんどが出てしまった。
いくら風が強いとはいえ、バスならそれほど影響も少ないだろうし、
ましてや何もないここで過ごすのに2日は長すぎる。

それでももう一人の女性は今日もここに滞在するようだった。
彼女も同じくリビングで退屈な時間を過ごしていた。



…ん?



…なぜか視線を感じるぞ。

…また、目があったぞ。



…なんだよ、なんか話したいのかよ。

…困ったな、僕の英語力じゃ大して深い話はできないぞ。

視線を感じながらの沈黙に耐え切れずとりあえず彼女にどこから来たのかたずねてみた。

『どこから来たの?』
「ウシュアイアからよ。でも住んでいるのはカナダ」
『へぇ、僕もカナダのバンクーバーから旅行を始めたんだ』
「バンクーバーに私は住んでるのよ。あなた自転車よね?私もユニサイクルで旅行してるのよ」

へぇ、ユニサイクルねぇ。なんだっけユニサイクルって自転車の名前?
しかしユニサイクルってあれだな、エクアドルであったチャオさんもユニサイクルだったよな。
ってアレ?ユニサイクルって一輪車だっけ…?

えぇぇー!!!!

なんと彼女は一輪車の旅人であった。
ウシュアイアからサンティアゴまで北上していくコースで半年かけてこのエリアを走るそう。

自転車で世界を回ろうとしている僕も、どちらかといえば頭のネジが一本くらい外れているとは思うのだが
失礼を承知で言えば彼女なんて10本くらいネジが外れているのではないか。
しかも風向きの関係でより難易度の高い北上ルートで。だ。

いろいろ色々わけが分からなかった。
荷物はどうしてるの?
水はどのくらい運んでるの?
一日に何Kmぐらい走るの?
などと、普段、僕がバックパッカーの人たちからされる質問を同じように彼女に問いかけていた。

もともとフランス人彼女はフランスにいた頃から一輪車旅をいていたそうでクロアチアまで走ったり
(その時はグループでサポートもあったそう)
ここに来る前もトレーニングでカナダを走ってきたそうだ。
完全な単独セルフ行は今回が初と言っていたが、
それでいてこのパタゴニアをチョイスするなんてのが驚きだ。

ウシュアイアからここまでこれただけでも十分、称賛に値する大記録だけれど、
この先のチリ側ダートはどうするんだろう?
しかも僕も相当苦労したカレテラアウストラルへ行くって言ってるし。

彼女がゆくコースの厳しさを知っているからこそ、余計に呆気に取られてしまう。
開いた口がふさがらないとはこのことをいうのかもしれない。

そんな愕然とした頭で絞り出した質問がこれまたチープなこと。
『どうして一輪車なの?』
「だって一輪車だったらよりチャレンジングじゃない」
そう答えた。
開いた口はさらに広がり、顎が外れかけた。

外は相変わらず暴風が吹きすさむ、日曜の午後。

※彼女のWEBサイトから拝借。
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