結局、僕がラフンタに到着し、ミルタ谷で過ごした数日で晴れた日はなかった。
山を降りる日も相変わらずぐずついた空模様。
雨の切れ間を狙って下山することにした。
カンポの小屋で亜衣さん、一心くん、幹太くんとお別れをする。
亜衣さんがおみやげに手作りのスコーンを持たせてくれた。
宏一さんは僕を見送りに麓の小屋まで見送りにきてくれることに。
荷揚げで何度となく、往復したこの山道もこれで最後。
足幅1つ分しかないか細い橋も、足首までずっぽり埋まってしまう泥んこ道も
最初に比べればだいぶ軽やかに歩けるようになった。
でも、前をゆく宏一さんの足取りにはまだまだ及ばない。
テクテクとまるで何事もないように歩く宏一さんの背中を追いかけて僕も足取りを早めた。
あっという間に降りきって、麓の小屋に着いた。
土砂降りの中、ここに着いた初日が懐かしい。
濡れてサビの侵食が進んだ自転車のチェーンが、この数日降り続いた雨の長さを物語っている。
自転車に荷物をセッティングし、出発準備をする。
いっそのことここで大雨が降れば、出発を取りやめれるのに。
けれど、グレー色の空はすんでのところで持ちこたえ、
僕の荷物も慣れた手つきであっという間に自転車に取り付けられた。
お別れの時はいつも最後をどう切り出したらいいのか、困る。
もっと聞きたいことや、話したいことが今更になって溢れてくる。
過ぎた時間は取り戻せないことなど、わかっているはずなのに
なぜか僕は、この時間を引き延ばそうと無駄に準備体操や荷物のチェックなどをしていた。
もたもたしている僕に宏一さんが
『ここがパタゴニアの自分の家だと思ってさ、いつでも戻ってきていいからね』
そう言ってくれた。
本当にたまたまの偶然が重なって出会い過ごした数日間。
“地球上のどこででも生きていける人間”を目指して旅に出た宏一さんの半生は
彼の著書に納められている。
本に載っていない、その後の中渓家の物語の続きを今回見ることが出来た。
現代文明と適度に折り合いをつけて、
その分知恵を絞って生きていくことにした中渓家の未来は
いったいこの地にどんな花を咲かせるのだろうか。
今からそれがとても楽しみだ。
それを見に必ず戻ってきたいと思う。
ありがとうございました。
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