2013年2月16日土曜日

あの日が導く旅

プコンに着く数日前の事。
話はイースター島での前置きから始まる。

イースター島からチリのサンティアゴに戻るときリマに一泊した。
チリ領のイースター島であるが、実はリマ経由の方が断然安い。
乗り換えで拘束時間は長くなってしまうが、半額近いこのプライスは魅力的だった。

それに、リマは2週間滞在した勝手知ったる街。
居心地の良い宿もあるので正直イースター島より楽しみだった。

往路こそリマに降りる時間はなかったが、復路でリマに降りた。

空港を出た途端にやって来るタクシーの客引き、クラクションが飛び交う喧騒、
思わず顔をしかめてしまうキツイ匂いの立ち込める裏路地。
隣国チリとは変わる世界に懐かしさとワクワクを感じていた。

宿も変わらず居心地がよく。
そこに居合わせた旅行者と遅くまで馬鹿げた話をした。

話は更に遡る。

学生時代の僕は東京の成城にある某映画撮影所でアルバイトをしていた。

なぜここでアルバイトをしようと思ったのかの記憶は殆ど無い。
けれど、大学から5分、自宅からも15分で着くこの距離は
僕にとってもバイト先にとっても都合のいいものだった。
出席確認だけ学校に行ってすぐバイト先に戻ったりと、
バイトにどっぷり漬かった生活が2年ほど続いた。

お給料は、本当に雀の涙ほどしかもらえなかったのだが
長いと1週間、ほとんど外界との接触がなかったりしたので
自然と貯まっていった。

そんな折、所内に新スタジオが開設し、新しいアルバイトの一斉募集があった。

そこにやってきたアルバイトの中に彼女はいた。
あまり聞かない珍しい苗字の頭をとって彼女はW子と呼ばれていた。
 ほとんどが年上の人ばかりの職場で、W子は珍しく僕と同級生。

妙に親近感を覚えて、僕は勝手に先輩風を得意げに吹かせていたと思う。

けれど、半年ぐらいたって、W子がどこかへ旅に出かけたと噂に聞いた。
 どこに行ったかは誰も分からない。
“ふうん、辞めちゃったんだ”と少し寂しい思いをしたものだ。

それから数年たった大学4年の夏、すでに就職先の決まっていた僕は“最後の冒険”と決めて
自転車を抱えてアメリカ横断の旅に出た。

ここで見事に自転車旅にハマッてしまう。

最後の冒険になるはずだった僕の旅はサンタモニカにビーチの向こうに続いていった。

ようやく話を今に戻すと。

僕はチリのある地方都市にいた。

その日は雨で、走るのを止めて休養日にした。
連日の激走がたたって足を痛めたのもあり骨休めと思って。

窓の外はシトシトと雨粒が降っている。

壊れた装備の修理やお世話になった人たちへの手紙など
やることは山ほどあるのだが
この日の僕はただただぼーっとベッドの上で時を過ごした。

そんな時、頭の中で最近の近況を反芻していた。

本当に道が変わり映えしなくてつまんないな、とか
サンティアゴの韓国料理また食べたいな、とか。
イースター島帰りのリマのことも思い返す。

楽しかったなぁ、あ、そういえばそこで出会ったあの人が僕と同い年で◯◯大って言ってたなぁ。
W子知ってるかな~。

まどろみに浸っている中で自然と記憶の奥底からW子の名前が蘇ってきた。

ちょうどパソコンを開いていたのでインターネットで探してみた。
珍しい名前と苗字だったため、すぐに見つかった。

たぶんこれがあの子だろう。

はは、いきなり見つかっちゃった。

それにしてもピンポイントで見つかるなんていまどきのインターネットってある意味怖い。

元気かな?いま何してんのかな?と思い彼女のページをクリックしてみて驚いた。

そこには“現在南米チリに移住”と書いてあった。

な、なにぃーー!!

突然すぎてびっくりした。

W子が近くにいる?!

驚きつつも、メッセージを送るとすぐに返信がきた。
もっとも彼女は僕のことをほとんどすっかり忘れかけていたそうだったが。。。

今はチリ人の旦那さんと結婚し、サンティアゴで暮らしているそうだ。

彼女と旦那さんは、彼女が撮影所を辞めて出かけたあの旅の途中によったイースター島で出会ったのだという。

驚きすぎて言葉が出ない。

本当に面白い世界だ。

簡単に“世界は狭いね”とは言いたくない。

自転車で走っていると、十分に世界は広く、曲がりくねっていて、デコボコだらけだ。
むしろ、走れば走るほどに世界は広がっていくように感じる。

地図や写真でしか見たことがない地球を自分の五感に刻み込んでゆく行為。
目を疑うような絶景や華やかな街なんてほんのひとにぎりでしかない。

大半が、恐ろしく地味でなんてことのない風景の連続だ。

でもそんな中に綺羅星のように突如不思議な出会いがやってくる。

これまでもたくさんの綺羅星に出会えたし、これからにもすごく期待をしているからこそ僕は自転車に乗っているのだろう。

縁ってやっぱり不思議だなと思う。

あの撮影所で貯めた僅かなお金を握りしめて旅立った二人。

旅に出たことで、これまで歩いてきた道からうっかり外れ、
その後の様々な紆余曲折を経て、またこうやって再会が出来るのだから。

お互いどんな年月を過ごしてきたんだろうね。

とゆうわけで!W子に会いにここプコンからサンティアゴ戻ることになりました。
さすがにバスっす 笑

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