2013年1月10日木曜日

田舎町の京都人

チレシートというこの辺りでは比較的大きな街に着いた。
といっても人口数万の街ですぐに街は回りきれてしまう程度の大きさ。
久しぶりに休養を挟むために街には2泊した。

2泊目の朝、銀行にお金を降ろしにいって、ホテルへ戻る途中サングラスをかけた男が
僕に向かって手招きしている。
道路を渡って彼のもとに言ってみると『日本人?』と日本語で話しかけてきた。
突然の日本語に戸惑って、僕は“はい”じゃなく“Si”とスペイン語で答える。
サングラスを取った彼の顔は、間違いなくアルゼンチン人。
それでも彼の口からは流暢な日本語がポンポン飛び出してくる。

彼の名前はセザルといった。

何でも十数年前に京都に1年間留学したそうだ。
ずいぶん昔だからもう忘れちゃったよーなんて言いつつも完璧な日本語だ。

夜、サッカーの試合を見ながら食事をしようという約束をし、その場は別れた。

午後8時。
約束の時間になってセザルの指定したセントロのレストランに行くと、
こっちでボランティアをしているというドイツ人の男二人と共に彼はやってきた。
外に面した席に座ると、今度はオランダやアメリカの女の子たちもやってきた。
ぜんぶセザルの友達らしい。
観光地でも何でもない小さな田舎町にあってかなりインターナショナルなテーブルが完成した。
そのみんなでアルゼンチン対チリのW杯予選の試合を見ながら食事をした。
英語も話すセザルはその場で、スペイン語、英語、日本語を使い分けて話した。
すごい…。
英語はともかく、京都で日本語を学んだだけあってセザルは京都弁で話すのが面白かった。
『チレシートにはいつまでいてるの??』と。

好きな食べ物は鰻丼らしい。
さすがにアルゼンチンでは手に入らないらしく、日本に行ったらまた食べたいんだよーなんて言っていた。

でもさすがに、僕の名前は発音しづらいらしく、結局僕のことは『僕の友だち』って呼んでいた。
それはこっちの“Amigo”をそのまま日本語に訳したものだけど、
日本語で『僕の友だち』なんて言われるとちょっと気恥ずかしくもあった。

弁護士の仕事をしている彼は、街でも顔が広いようで食事中も周りからしょっちゅう声がかかっていた。

試合はメッシの活躍もあってアルゼンチンが2対1で勝利。
試合終了と同時に周りの客が帰り始め、僕らもこれでお開きとなった。

車でホテルまで送ってもらい彼とお別れ。
『またお越しやす~』なんてのはさすがに言わなかったが
『またね、気をつけてね』と握手して別れた。

よもやこんなアルゼンチンの片田舎で日本語を話す男に出会うとは。
不思議な出会いで未だ現実感がない。
夏の終わりのような涼しげな夜風がより一層この不思議な気持ちを強めた。

この街の名前はチレシート。
日本語に訳せば“小さなチリ”

アルゼンチンの小さなチリで出会った京都弁を話す男と過ごした夜だった。

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