2012年12月7日金曜日

落日に見た幻

今日から一日中悪路との戦いとなる。
気合を入れて早朝出発!といきたいところだったが寒すぎてなかなか布団から出れず…。
さらに宿は思わぬ朝食付きだったので、色々やっていたら結局8時をとうに過ぎていた。

宿の外はすっかり太陽が上り、黒さを含んだ深い青が今日も顔を出していた。
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湖畔にはおびただしいほどのフラミンゴが朝から水浴びをして戯れていた。
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このフラミンゴの群れ、実は昨日も見かけてはいたのだが、少し余裕がなくてちゃんと見れていなかった。
それに夕暮れのフラミンゴよりも、蒼天の下のフラミンゴの方が一層ピンクが映えて美しい。
出発をしなければいけない時間にも関わらず、しばし見とれていた。
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この近辺には世界で5種いるフラミンゴのうち3種が生息しているそうだ。
もっともその違いは僕には分からないが。

実はサブカメラのコンデジが宝石の道に入ってから壊れた。
砂塵のせいか、振動のせいか。
もう一方のカメラはズーム機能はないので、これが精一杯。
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近づくとバタバタと羽をばたつかせ僕から遠ざかろうとする彼ら。
昔、コロンビアの動物園で見た人馴れしたフラミンゴとは全く僕へ反応が違う。
彼らも僕らも1つの生き物として相対している世界がここにあった。


このあたりはいくつかの塩湖が点在するコース。
ゆえに観光ツアーの散策コースにもなっており、通り過ぎる塩湖には早朝にも関わらず常にツアーの四駆があった。
コース上の塩湖は大抵一山越えたところにあった。
悪路と相まって、自転車で走るには激烈にきつい道のり。
でも、僕に気づいた観光客が手を振ってくれたり、声をかけてくれたりするからきつくても頑張れる。
もっともそれは、僕の見栄からくる頑張りかもしれないが。
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やがて砂の盆地にでた。
ここはあたりの轍を引いたらしく、かなり乗れた。
ほとんど足をつくことなく走りぬいた。
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だが11時ごろになると早くも西風が吹き始め、道の砂も深く、傾斜もきつくなりだした。
砂の深さは昨日以上。
どう頑張っても漕げない道で再び自転車を引き上げつつ押した。
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鬼のようなスイッチバックの丘を越えると、完全な砂漠地帯に出た。
標高4300mを越える高地に砂漠が広がっているなんて誰が想像したことか。
あらゆる生命活動を拒む、砂と風の世界を一人の生命体がえっちらおっちらと自転車を押している。
なんてシュールな世界だ。
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そうは言ってもたまにツアーの車が通り過ぎる。
こちらのことなどお構いなしに砂煙を巻き上げていく車に文句も言いたくはなるが、
でも道なき世界で、車を見かけた時の安心感は格別。
彼らはクラクションで僕にエールを、僕は僕できついながらも左手をあげて返事をした。
やっぱり挨拶って気持ちいいな。
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ある一台の車が通りがかった時だ。
いつものように僕は彼らに向けて手をあげた。
運転席の男もそれに手をあげて返す。
だが、助手席の男は何か様子が違った。
よく見ると、助手席の男は黒く長いレンズのついたカメラを僕を目がけて構え続けていた。
こちらが手を振っても、全く構えを崩す様子もなく。

はっきりいってこれにはひどいショックと憤りを覚えた。

こんな僻地を自転車で走っているなんて酔狂もいいところ、ネタにされて当然かなとも少しは自分でも思う。
でもそれを安全地帯とも言える自動車の中から、僕を狙い撃ちするかのようなカメラの眼光は
あまりにも冷酷で無慈悲だった。
そこに旅人同志が分かちあうよう旅への共感など存在しなかった。
圧倒的強者がいて弱者がいる世界。
まるで動物園やサファリパークにいる動物のように僕は彼のフィルムに収まった。

それからというもの。

きつくとも心だけは軽やかだった足取りが途端に重くなった。
気のせいか風もさっきよりもビュウビュウと強まっている。
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さっきのカメラの銃口が頭を巡っていて、ずっと彼への恨み節を口にだしていた。

やがて日もくれそうな時間帯に。
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振り返ってみると、今朝のホテルを除けば、今日は一切の人工物を見かけていない。
それどころか、風を凌げそうな岩陰すら皆無でひたすら砂漠をさまよい歩いていた。

どこで夜をしのごうか?
あそこにしようか?
いや、あそこじゃ風に吹き飛ばされるし、そもそもテントすら張れないのでは。
もう少し進んでみる?
でもあそこが今まででは一番ベターなんじゃあ?

そんな葛藤をしながらジリジリと落ちていく夕日に焦りを覚えた。
一日中自転車を押し続けて僅か40km弱。
泣きたくなるような数字が自転車につけた速度計から表示されていた。

タイムリミットが迫った5時半ごろ、丘を右から回り込んだところに家の影が見えた。

助かった!!

こんなところに人が住んでいるなんて。

天から垂らされた蜘蛛の糸をたぐり寄せるようにして、その影を目指した。
砂は相変わらず深く、影が見えてから、そこにたどり着くまでゆうに30分以上かかった。
果たして辿り着いたそこは、村でもなんでもなく、ただの岩だった。
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けれど、裏切られたような落胆はなかった。

今日はこんな岩一つない世界だったのだから。

こんな岩にすら救われたような安心感を得ている自分がいた。
岩陰にテントを張ると、僕の心ごとすべてをかっさらっていきそうな程に強く冷たい風は幾分か和らぎ、
奇岩が刻々と伸ばしていく影と一緒に僕も闇に紛れた。
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※翌朝撮影
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