2012年12月26日水曜日

無人の国境

目が覚めて、気がつくと、僕は朝を迎えていた。
あれほど恐怖心を煽られた風も、ひとたび眠りに落ちればあとは夢の中に身を任せるだけ。
睡眠は、恐怖や疲労、寒さや空腹などあらゆる感覚を遮断した。
全くもって人の体は都合のいいように出来ている。
s-DSC09379
朝になると、昨日の風は止んでいた。
テントを畳んで出発。
s-DSC09382
再び砂の回廊を、広がる景色とは裏腹にガタガタと自転車を揺らし、電線が伸びる丘をぐるりと回りこむように登った先に
昨日めざそうとしたエルラコの寄宿舎があった。
標識の距離表示とだいぶ位置がずれていたが、この場所で人工物を見ただけで何故か心はひどく安心感を覚えた。
寄宿舎を横目に再び歩を進める。
s-DSC09384
s-DSC09388
再び丘を越え、長い下りに転じた坂の途中にチリの国境警備の詰所があり、そこで出国のパスポートチェックを受ける。
問題なくスルーし詰所先の岩場で昼食。
ここから国境まで20km程度と詰所にいた警備員に教えてもらっていた。
その20kmが今回のシコ峠越えの中でもハイライトと言えるスペシャルな景色の連続だった。
デジカメが壊れていたので、大した写真は撮れていないのが残念だが
同じような高地の宝石の道とも異なる山岳風景。
その微妙な違いを言葉で上手く言い表すことができずもどかしいが、
とりわけ最後の数kmは黒ずんだ小山がぽこぽこと顔を覗かせ
可愛らしくも別な惑星を連想させるようだった。
s-DSC09393s-DSC09395
s-DSC09400s-DSC09403
峠とは名ばかりの、やや下りがかったまっすぐな道にそれはあった。
s-DSC09407
アルゼンチンの国境ゲート。
あたりにはこれ以外何もない。
南米最終国の入り口はこれまでで最も寂しい場所に黙々とあり続けた。
s-DSC09412
このゲートは決して僕を待っていたわけではないが、僕はこのゲートをくぐることをひたすら信じ、やってきた。

あれは、旅を始めてまだ間もない頃、カナディアンロッキーを走っていた時だ。
街に着いてキャンプ場を探していると、“アルゼンチンに行こうとしてるやつってお前か!?”と声をかけられた。
小さな街だったので、あっという間に僕のうわさ話が広がっていたらしい。
僕は、そうだと言いつつも、その日の激しいアップダウンに参っていて
こんな体で果たして本当に行けるのか?とちょっと頼りなく返事をした記憶がある。

あれから20000km近く。

地球半周分にもなる距離を走り、いつしか自信を持って
アルゼンチンまでさ、ウシュアイアまで行くんだって言えるようになっていた。

ずっとずっと目指してきたアルゼンチンにいよいよ入る。
ここにはそれを祝福してくれる人はおろか国境の係員すらいない。
たまにトラックが砂煙を立てて通り過ぎるだけだ。
でもそれでいい。
まだまだ先は長い。
ウシュアイアまでだって6000km近くあるんだ。
胸をなで下ろすのは、もう少し後でだ。
てか今日の寝床の確保すら危ういし 笑

そう思いながら、鉄のゲートをくぐった。
s-DSC09413s-DSC09416s-DSC09417s-DSC09419

0 件のコメント:

コメントを投稿