2012年12月25日火曜日

吹きすさぶ恐風

昨日到着したソカイレでは村唯一の宿がタイミング悪く満室だったが
併設された屋根付きのテーブル台で有り難くキャンプさせてもらった。
今朝、出発の準備をしていると、向かいの母屋からセニョーラが“食べて”と薄焼きのパンを持ってきてくれた。
手にとると温かい。
お礼を言って、いま焼かれたばかりのパンを頬張るとほんのりとバターの風味が口のなかに香った。
こういう親切に触れると、やっぱり力が湧いてくる。

やったろうじゃん、シコ峠!
すぐにチリに帰ってくるよ、と、チリ最後の集落を後にした。

ソカイレを出ると事前の調べ通り舗装が途切れたものの、問題なく走れる状態の道をぐいぐいと標高を稼ぐ。
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午後になってミスティ山(?)が見える頃辺りから足元はだいぶ悪くなってきたが、ボリビアに比べればまだまだ。
やっぱり、一度最低を経験すると強い。
“あの時と比べれば”そう思うと全く苦にならない。
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それにしても、僅か1日半で再び世界がもとに戻った。
アタカマでの緩く流れた時間が幻だったかのような。
のんびりだらだらも大好きだけれど、
やっぱりこういう厳しい自然環境の中、張り詰めた感じでガシガシペダルを踏むのもいいな。
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今夜はキャンプのつもりでいたが、
思ったよりも早く早い時間に予定していたアグアスカリエンテス塩湖のミルキーな湖面を捉えた。
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もう少し頑張ればエルラコ鉱山の寄宿舎にも手が届きそうだ。
そう思いながら、塩湖に下る坂をおりていたら、突風と深砂に足をとられ激しく転倒した。
その拍子にサイクルメーターが外れ、どこかへ行ってしまった。
すぐ付近を探したが見つからない。
砂に埋れてしまったかと砂を返して探したがどうにも見つからない。
他の装備ならまだしもサイクルメーターは僕の轍の証明になるものなので、どうにかして見つけなければ。
唯一、車なんて数えるほどしか通らない道なので車に轢かれて大破ということはないので根気よく探した。
あらゆる可能性を探って、結局見つかったのは転倒地点から約500mほど戻った下り坂の入り口だった。
1時間近く経過していた。
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メーターを探して引き返していたときに、気づいたのだがこの頃になると、恐ろしいまでの西風が吹いていた。
宝石の道を走っていたときにも経験したことのないような爆風が西から猛烈に吹きすさんでいた。
走っている最中は東進していたので気づかなかったが、メーターを探している間にどんどんと風は強くなっていった。

メーターを拾って安堵している間もなく、今度は風の恐怖と闘いだった。
進む分にはいい。
この悪路にあって、ほとんど漕がなくても20km近いスピードが出た。
登り坂にも関わらず、だ。
だけど、時折進行方向が代わって横風になると、バランスを崩して再び転倒しそうになる。
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塩湖をいくつか抜けながら、今日はどこまで進むか?自問していた。
下手なところでキャンプをしたらテントごと吹き飛ばされてしまうんじゃ?
まだなんとかエルラコまで行けるか?
すさまじい追い風な分、ストップした時の恐怖があり、止まるに止まれない状況だった。
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途中にあった、本日のベスト野営ポイントに思えた岩がごろついたエリアもストップできず。

少し先に人工物のようなものが見えて、
あそこがエルラコか!助かったと思って最後の踏ん張りで行ってみると
ただの打ち棄てられたブロックと、巨大な送電線だった。

送電線が建っているのだからエルラコは近いような気がしたが、時刻も日暮れ間近。
最悪、見逃して通り過ぎていた場合にこの先風除けはないので、止むを得ずこのブロックを頼りにキャンプすることに。

が、このブロック、風向きに対して微妙に斜めっていて大した風除けにならなかった。
かといって周りは何にもない原野。
もうこのブロックを頼りにする他、術はなく。

テントを広げるだけで四苦八苦し。
中に荷物を入れた状態でテントを立ち上げたのだが、驚いた。
その重しをした状態なのに、風でテントが浮いて持ってかれそうになった。
慌ててポールを掴んで、両足でテントの辺を抑えて踏ん張る。
我ながら相当にダサい光景。
逆に誰もギャラリーがいないのが寂しくなるくらいだ。

ブロックからは鉄筋が出ていたのでそれを頼りに張り綱をがっちりと張る。
ようやくテントを張り終えたのは、ここに着いて30分以上たった後だった。
すぐさま幕内に避難する。もう夕食なんて食べる気すらおきない。
薄っぺらいテント生地がバタバタと風に抵抗をする音を立てる。
細いポールもギリギリと必死に風をこらえている。

大丈夫、大丈夫。
止まない風はない。
僕はきっと明日を迎えられる。

気を抜けば、テントもろとも吹き飛ばされてしまいそうな自分に
シュラフの中でそう言い聞かせ続けた。
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