2012年12月13日木曜日

星降る湯殿

宝石の道最高峰の4900m地点を越えるとすぐに、Sol de Mananaと呼ばれる間欠泉地帯に出た。
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ひゅーひゅーと甲高い音を立てて吹き上げる蒸気は、冷たく乾いた大地とは対照的に
離れた場所からでも熱と柔らかい湿り気を運ぶ。
一見すると、生命活動の一切を受け入れないこの大地も、
岩盤の一枚下ではこうやって地球の鼓動を感じることが出来る。

極端なほどの有と無。

だからこそ、人を惹きつける魅力がここにはあった。
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Sol de mananaを過ぎて、少しのアップダウンを経て下りに入った。
下りの向こうにはサラダ湖が見える。

下り坂はかなりゴツゴツした岩が目立つガレガレの道だったが、重力の法則に流れを任せ、
スピードに乗って下る。
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膝と腕を巧みに使って衝撃を吸収しながら下る。なかなかにスリリングだが楽しい。
まぁこう書いてしまえば聞こえはいいが、実のところは日暮れまでの時間がなかったのだ。

この時点で時刻は4時半を回っていた。
日暮れの6時までに今日の目標地点に着かなければいけない。

今日の目標地点とはすなわち温泉。
旅に出て以降数多くの温泉に入ってきたが、今日目指す温泉は究極に近いロケーションといっても差し支えない。
そんな秘湯に星を眺めながら入るのが今日の目標なのだ。

結局、下り坂を下りきるのには1時間近くかかって。
湖畔沿いの道にでた。
地図では湖畔近くに温泉有りと書いてあるのだが、いっこうにそれらしきものは見えない。
焦る心情とは裏腹に夕日に伸びる山の影がとても美しかった。
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なんとか温泉に到着したのは6時ごろ。
夕暮れぎりぎりだ。

ここにはツアー客が立ち寄るレストラン施設があって、ここのそばでテントを張っていいか尋ねたら
寒いでしょう、と施設の中で寝袋をひかせてもらった。
ありがとうございます。
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さて、ツアー客も立ち寄るこの温泉ですが、彼らが寄るのはツアーのスケジュール上大抵朝方。
つまり夜は貸切状態なのである。
これを知っていたからこそ、是が非でも今日中に到着したかったのだ。

施設に荷物を運び入れ、さっそく温泉に…と思ったら先客がいた。
どうやら地元民のようである。

ちぇっ、っと少し残念な気持ちになりながら、まぁ男しかいないしと思って僕は全裸になって温泉に入った。
湯船は思ったよりもぬるめ。
肩が湯船から出るとかなり寒い。
それでもピンク色の空がやがて闇に染まっていくのを見ながら入る温泉は最高だった。

先に温泉に入っていた二人の男が僕と
“どこからきたの?”とか“彼女はいるのか?”とか他愛もない会話をする。
“こっちへこいよ、ここが源泉で温かいぜ”なんて彼らに教えてもらったり。

まだ22歳と20歳の彼ら。
近くの村に住む若者だそうだ。
突然、バシャバシャと水しぶきをあげて温泉に潜ったりして遊んでいる。

先に温泉をあがった彼らは、うぅ、さみぃーなんて肩をすくめながら慌てて着替えをしている。
先に着替えが終わった男が、“早くしろよー”と。もう一方の男が“待ってよ”と。

僕はこの地が人が寄り付くにはとても厳しい環境で、この温泉はスペシャルなものだと思って走ってきた。
けど、彼らにとってはこれがスタンダードだ。
道の悪さも、自然環境もあらゆるものが。

あと数10km先はチリだ。順調なら明日には入るだろう。
チリは先進国と言っても過言ではない国と聞いている。
きっと明日の今頃はホットシャワーを浴びて快適なベッドの上だろうなと思う。
でも、ほんの僅か離れたここにはそんなものはない。
いま目の前にあるものが、この場所のスタンダードだ。

バイクに二人乗りをして、彼らは街灯もない荒れ道を帰っていった。
二人の会話を振り返りながら、ようやく念願の一人星見風呂を満喫する。
“アタカマに行くのか!?いいなぁ、チリ人の女の子はかわいいんだよなぁー”
彼らと話したこんなやりとりを思い出していたら、なんとなくこの場所が身近な存在に思えてきて一人クスリと笑えてきた。

空には満点の星が今宵も輝いている。
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