2012年9月17日月曜日

パンパに暮らす少年

朝がやってきた。
レストランは朝から、朝食を食べにやってくるトラックドライバーで溢れ、レストランの家族は忙しそうだった。
これは朝だけに限らず、昨日の深夜も腹をすかせたドライバーがひっきりりなしにやってきて、
寝る暇があるのだろうかとこちらが心配するほど。
山で暮らすというのも決してのんびりというわけにはいかないよう。

テントをたたみ、簡単な朝ご飯を食べてから出発。
東に伸びる道には太陽がまぶしく登り、一日の始まりを告げた。
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ビジャタンボの集落を出ると再び無人の地へ。
上り坂は相変わらず緩く長く続いていたが、昨日のような山岳地帯は越え、景色が見渡せる高原地帯へとでた。
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もぐら??
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とまたしてもすれ違いざまドライバーから差し入れをもらう。
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本当にありがたい。
こういう小さな親切に導かれてここまでやってこれたと思う。
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道はゆっくりと天空へと自転車を運び、標高も3700mを超えだした辺りで金色に輝く草原へと出た。
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パンパガレーラス国立保護区。
およそ富士山に近い高さの草原は、のんびりと。
しかし、時折吹き抜ける風は冷たく、ここが過酷な環境だということを嫌が応にも実感させる。

そんなところにも人は住み、暮らしを営む。
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僕らのような自転車旅行者からすれば本当にありがたいレストランだが、ここで暮らす人々の気持ちたるや計り知れない。
ジャガイモと米、牛肉の筋を煮込んだシンプルなスープがこの上なく染みる。

保護区のレストランを過ぎると、僕は視界にあるものを捉えてギュッとブレーキを握った。
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野生のビクーニャだった。
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一時の乱獲で絶滅危惧種にまで激減してしまったビクーニャ。
ここでは信じられない数のビクーニャが草を喰み、群れをなしていた。

見た目のんびりしてそうなビクーニャだが、一度走る姿を目撃した。
長い首を低く、前に付きだして足のストライドは美しく力強く、おそらくスピードは50km以上出ていたように見えた。
彼らにとって高地の空気の薄さはなんのその。
大地を駆ける彼らの美しさにしばし見とれていた。
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保護区のちょうど中間地点までくると保護区の事務所のエリアにやってきた。
その正面には2件ほどの商店が。

事務所にはテントマークの看板があったので、商店のおばさんに泊まれるか尋ねると泊まれるよとのこと。
ただ、事務所の署員が見つからず、どうしたものかと困っていると、さっきの商店の子供がやってきて
署員を連れてきてくれた。
署員のおじさんに泊まりたい旨を伝えると、ちょっと待ってろといって、連れていかれその先には
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なんと宿舎の一角を貸してくれた。
雨風がしのげる場所に加えてベッドとトイレまで。
本当に有難い。
聞くと数日前にも自転車旅行者がきたとのこと。
話から察するにモトミくんだった。
“アルコールでちまちまパスタを作ってたよ”なんて話をされる。

部屋に荷物を置いた後、せっかく水を使えるところにきたので洗濯をすることに。
2日間着続けたTシャツは極度の乾燥と発汗で塩がバキバキに固まっていた。
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水を使えるといってもここは山の中。
恐ろしいほどに水が冷たく、10秒も手を入れていられないほど。
手を真っ赤にさせてなんとか洗濯終了。

一仕事終えたあと、さっきの少年フェルナンドと一緒に遊んだ。
遊ぶといっても、フェルナンドが僕に一方的にちょっかいを出してくるので、それで僕が反撃をするというパターン。
5歳の子供にとってはそれがとてもおもしろいようで、フェルのちょっかいはどんどんエスカレートし
しまいには鎌をもっていたずらをしてきた。

鎌を取り上げた僕は、こんなものを使ってくるならもう遊ばないよとフェルを無視。
かまってもらいたい彼は、あの手この手で僕の気を引こうとする。
しまいには保護区の石垣を崩すことまで。。

『お前ー、それはやっちゃいかんだろ!!』
とフェルを止める僕。
二カーっと笑うフェル。
もう完璧に彼の作戦にハマってしまう。
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フェルは水色のツバの大きいハットをかぶっていて、その大きなツバが故に僕と正面で向きあうとそのツバで目が隠れてしまう。
だから話すときはいつも、顔を後ろにのけぞらして下目がちに話すのだった。
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彼は全身を使って、感情を表現した。
飛び、転がり、走り…
おいおい、汚れるぞと思ったその時、一瞬ハッとした。

何かを表現するときに、体の痛みや服の汚れそんなことを気にしないフェル。
僕はおそらくもう二度と彼のようにすることは出来ないだろう。
遠い昔に手放してしまった彼の無邪気さに僕は言葉が出なかった。
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人が生きるにはとても過酷な環境で、彼はどんなふうに育っていくのだろうか?
何を考え、生きていくのだろう?
外界とはあまりにかけ離れた環境で、彼もいいつしか外界に出ることを選ぶのだろうか?

フェルナンドというピュアの塊のような少年にあって、何だかいろいろな思いがこみ上げ交錯してはまたこみ上げてきた。

やがて、また夜がやってきた。
吹きさらしの風は窓ガラスを叩く。
僕にとっては今晩凌げばいい寒さ。
けれど、フェルになってはこれから先も続く寒い夜。
ろうそくの明かりだけが闇夜に光り、僕はずっとここで会った少年の事を考えていた。
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