2011年8月1日月曜日

スルーハイカーとの出会い

アメリカには国土を縦断する3大長距離トレイルがある。
メキシコ国境からカナダ国境までの超ロングトレイル。
パシフィック クレストトレイル、コンチネンタルデバイドトレイル、アパラチアントレイルがそれである。
それぞれ3500km~4500km程度の距離を半年ほどかけてひたすら歩く。

この3つのトレイルを全て制覇することをトリプルクラウン、このトレイルを歩く人たちをスルーハイカーと呼ぶ。

ここグレイシャー国立公園にはコンチネンタルデバイドトレイルが走っている。
コンチネンタルデバイドトレイルは、ルートが未確定な箇所もあり、その名の通り稜線歩きも多いので3大トレイルの中でも、最も難易度が高いといわれている。

グレイシャー国立公園には2泊した。
1日目は、到着したのが夕方だったので、すぐ床に就き、2日目にグレイシャーをハイキングしようと思っていた。
St.Mary Lake

この公園はその名の通り、氷河が特徴の公園であるが、温暖化の影響でどんどん氷河が後退し、ある研究では2030年には全ての氷河がなくなってしまうのではと危惧されている。
グレイシャーがグレイシャーでなくなってしまうというわけだ。
 
公園の東ゲート・St.Mary~西のゲート・West Glacierまでの85kmをGoing to the sun roadという道がサミットのLogan passを挟み通じている。
風光明媚な観光道路と知られているが、登りが苦手な僕にとって“pass”という言葉はご法度。
どうしようかなと悩んでいたら、日中は自転車は通行禁止ということを知り、少し安堵する。
これで、堂々とバスに乗れるぞ。
GTTSは無料のシャトルバスが走っているのだ。
Logan passにはビジターセンターがあり、いくつもトレイルがあるので氷河を見に行こうとシャトルバスに乗り込んだ。

バスは標高をぐいぐい上げていく。
それと一緒になってガラス越しに見える風景も少しづつ変化していった。

1時間ほど乗車してpassに到着。

天気は良かったが、風が強くめちゃめちゃ寒い。

麓も風が強かったが、ここはさらに強くなっている。
さすがのアメリカ人たちも寒そうにしているのを見て少し安心。
インド系の人は本当に寒そうにしていたのも見れて笑ってしまった。

僕はといえば気温を甘く見てフリースしか防寒着を持ってこなかったので、少し様子を見てみるが耐えれそうに無かったので、一時間ほど周囲を散策してあっさりキャンプ場に戻ってきてしまった…。

麓のカフェで少しゆっくりした後、テントに戻るとひげがボウボウに生えた青年がサイトにやってきた。

僕が泊まっているキャンプサイトは、ハイカーズサイトといって、一つのサイトをシェアすることで料金が安くなるのだ(7$)国立公園を訪れる人は大体が車なので、通常のキャンプサイトは早々に埋まってしまうが、このハイカーズサイトは大体ガラガラ。おまけに価格もリーズナブルなので本当に助かる。
ただし、これはたまたまかもしれないが、僕の経験上、大体のハイカーズサイトがキャンプ場の一番奥に設定されていてストアに買出しに行くときなどは少しだけ不便である。
その分、静かな自然を楽しむことは出来るのだけれど。

彼の名前はネルソン。
一目でスルーハイカーと分かる出で立ちだった。

『Are you thru-hiker?』

と僕が訪ねると

『off course!!』

とにっかり笑った。

ネルソンはとにかく笑顔が素敵な奴で、なにかあるたびにひげボウボウの顔を崩して笑う。
habaとhabahaba

彼は2年前に既にアパラチアントレイルを踏破しているとのこと。
年齢を尋ねると25歳。
ってことはアパラチアントレイルを歩いたのが23歳の時。
素直にすごい!!と感心してしまった。

そんな彼と夕飯を共にした。
僕はストアで買ってきたラーメンとハム。
ネルソンは、重そうなベアコンテナからフリーズドライのチキンライスを取り出した。
ガスストーブでお湯を沸かすときに、彼は頻繁に火力を絞った。
燃料のコントロールは彼にとって死活問題。
僕のようにあくまで“人のいる”道路を走っていれば、もし燃料が切れてもなんとかなるけど、
彼の場合そうもいかない事もある。
少しでも燃料を節約し、大事に使う姿が印象的だった。

…の割になぜか風防を持っていなかったけど(笑)
ずっと手で風除けを作っていた。
こちらがネルソン。ハイカーネームはPOPPINS

彼と話している折に、何度か時間を尋ねられた。
最初はなんとも思わなかったけど、明日何時にここを発つのか訪ねたときに
『太陽が出たら出発さ』
と言われたときに初めて彼が時計を持っていないことに気付いた。

『太陽が君の時計なんだね』
といったらネルソンはそうだねとにっかり笑った。

僕は何にも縛られず、自由気ままに旅をしたいと思って仕事を辞めたわけだけど、
旅に出てもなお、“明日は8時に出発してここまで行こう”とか“いま60km走ったから次の街には4時には到着できる”なんて時間にとらわれがちだった。

彼のように時計を持たずに自然に分け入り、太陽の浮沈と共に寝食を過ごすスタイルはとてもうらやましく思えた。

『今夜は満月だね』
 彼は言った。

言われて気付いた。僕はあろう事かそんな事すら知らなかったのだ。

深夜、トイレに行こうと目が覚めてテントの外に這いずり出たとき、見たこともないくらい眩しい満月が輝いていた。

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